マッシュポテトにドイツ人のじゃがいも愛

カルフェットピュレ/Kartoffelpüree

ドイツのとあるワインの展示会場で仕事の合間に急いで食べたこちらの一皿、絶品のドイツソーセージもさることながら、注目すべきはマッシュポテトの美味しさです。

日本では単にマッシュポテトといいますが、ドイツではカルフェットブライ(Kartoffelbrei)とカルフェットピュレ(Kartoffelpüree)と呼び分けているように、同じマッシュポテトでも微妙な違いがあり、カルフェットブライに牛乳を足して滑らかさを究めてものをカルフェットピュレと言うそうです(*ドイツ人でもそこまで意識してない人も多いようですが)。

スーパーマーケットのじゃがいも売り場には驚くほど多くの品種が並んでいて、料理ごとに使い分けているのだとか。醸造家の友人で世界的なリースリングの造り手マルティン・テッシュは、「家族が食べる一年分のじゃがいもを農家から直接買い付けて自宅の倉庫に保管している」というほど熱心。

さて、このカルフェットピュレ、シンプルなレシピですがバランスが難しく、シルクのような滑らかさと凝縮した味わいを出すにはかなりのトレーニングがいるそうです。完璧なカルフェットピュレは、じゃがいもとバターの風味が絶妙にのったクリーミーな口当たりがしているもの。バターが強すぎてギトギトになってもいけないし、じゃがいもがパサパサしてもいけないのです。

材料:
 じゃがいも・・・900g(男爵などでんぷんの多い品種)
 生クリーム・・・1カップ(脂肪分の多いもの)
 塩・・・少々
 ナツメグ(できればすりおろしたもの)
 バター・・・・100g(2cm角に切り冷蔵庫で冷やす)

1  大きい鍋に水を張り、皮付きのじゃがいも、塩を少々入れて蓋をし、柔らかくなるまで20分ほど火にかける。竹串などがすっと通れば茹で上がりのサイン。
2  水気を切り、皮をむく
3  じゃがいもを潰すか、裏ごしする
4  生クリームを沸騰寸前まで火にかけてナツメグを入れる
5  じゃがいもに生クリームを足し、滑らかになるまでよく混ぜる
6  冷蔵庫からバターを取り出し5に入れてさらによく混ぜる
7  塩で味を調えたらできあがり

【TIPS】より滑らかに仕上げたかったら最後にもう一度裏ごしするというひと手間を。面倒でもカルフェットピュレが上手に作れたら、ソーセージやザワークラウトを盛り付けるだけで美味しい一皿が完成します。ビールに手が出そうですが、ここはやっぱりリースリングを!

2周回ってイタリア、食の都の赤い泡

Medici Ermete

生産者:メディチ・エルメーテ
生産国:イタリア/エミリア・ロマーニャ州

シャンパーニュに代表されるスパークリングワインといえば白やロゼが有名ですが、赤い泡があることをご存じでしょうか。

イタリア中部のエミリア・ロマーニャ州で造られる「ランブルスコ」がそれ。愛らしい赤果実の風味と渋みの少なさでビギナーでも安心の美味しさというだけでなく、美食の国イタリアでも「食の都」として名高いエミリア・ロマーニャ州のワインだけあって食事との相性が抜群。イタリア料理といわれて連想するパルマハムやパルミジャーノ・レッジャーノチーズ、ボロネーゼソースはどれもエミリア・ロマーニャ州が発祥ですが、そんなイタリア食材はもちろんのこと、幅広い料理とよく合うので使いやすさも抜群です。さらに普通のワインより少しアルコールが低いので、スルスルと飲めてしまうという始末。

そんな愛すべきランブルスコの完成度を極限まで高めたのが、かのメディチ家の末裔が経営するワイナリー「メディチ・エルメーテ」です。ランブルスコで初めて大量生産ではなく、単一畑でのブドウ栽培を取り入れて品質を磨いた結果、カジュアルなワインが永遠の輝きを持つことになりました。気さくなのに超一流というところがたまりません。

The owner and 4th generation, Alberto Medici

そこに息づく歴史と献身でしか醸せない熟成美

Bodegas Ximénez-Spínola

生産者:ボデガス・ヒメネス・スピノラ
生産国・産地:スペイン・ヘレス地方

“ペドロ・ヒメネスという品種に特化したヘレス・デ・ラ・フロンテーラのブドウ栽培一家”。自らを称してこう表現する謙虚さからは全くもって想像しがたいが、古くからスペイン王室御用達を務める高級シェリーの蔵元であり、名前こそ明かせないがヨーロッパのセレブリテを顧客としてきた名門である。


最大の謎は、21世紀になるまで商品が極甘口シェリー、ペドロ・ヒメネスしかなかったこと。たった一つの品種からたった一つのワインを創業以来300年間も造り続けて来たとなれば、それが今やどんなに貴重なワインだとしても「なぜ?」と知りたくなる。ましてや酒精強化すらしていないとなれば、ソムリエに説明するだけでも一苦労なのだが、まずは理屈抜きで飲んでみて欲しい。この色合、そもそも並のペドロ・ヒメネスではない。透明感と輝きはまるで琥珀のようだし(琥珀は太陽の石と言われるパワーストーン)、液体はサラサラとしてどこまでも滑らか。そして香りは圧倒的。このワインを前にすれば、驚き、憧れ、言葉を無くしてしまう。磨き抜かれた品質の裏には、昔ながらの手仕事と細部に至るまで妥協を許さないという姿勢がある。そんなこだわりの一つ一つがとにかく圧倒的だから、飲めばうんちくが聞きたくなるというパラドックスが待っている。


今や本物の極甘口シェリーを造る唯一無二の存在となったこの蔵元で、現役最古のソレラシステムが設置されたのは1918年。以来、継ぎ足し継ぎ足し使い続けること遂に百年を迎えた(2018年、復刻版の記念ボトルが限定リリース)。長い時の流れを感じながら、今この瞬間を味わい尽くす。そんな大人の瞑想にぴったりのワインは、収穫から完成まで実に15年という時間を費やして造られている。この究極のペドロ・ヒメネスから派生した規格外の商品の数々にもぜひ注目して欲しい。

ピノ・ノワール・プレコスと小鳥のおはなし

Photo by Vicente van Zalinge

この世界には本当にたくさんのブドウ品種があるもので、ワインバイヤーになって十数年、イギリスのスパークリングワインを買い付けて初めて出会ったブドウ品種がピノ・ノワール・プレコス(Pinot Noir Précoce)です。直訳すると「早熟のピノ・ノワール」という意味になりますが、ピノ・ノワールとは異なるという説もあり、その実態はマイナーゆえにまだ解明されていません。

これについて議論するのが本来私の仕事ですが、それはどなたかに任せるとして、ここでは「ピノ・ノワールとの違いは何ですか?」と造り手さんに尋ねたときの回答から豊かな環境を想像させてくれる素敵なお話をご紹介します。自然に寄り添うのがワイン造り。そんなワイナリーの日常が見えるようで癒されます。

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“イングランドでは通常ピノ・ノワールよりもプレコスの方が理想的なレベルまで熟しやすい品種です。完熟を迎えられるので、プレコスからは赤果実のはじけるようなアロマと風味、そして濃く深い赤色が得られます。

しかもプレコスはピノ・ノワールより約3週間早く熟します。イングランドではしばしば秋に雨が降りますが、その前に収穫できるためボトリティス菌のリスクが少ないというメリットもあります。

さらに鳥害のリスクも少ないです。というのも、プレコスが完熟する時期はブドウ以外のたくさんのベリーが実を結ぶため、鳥は他にも食べるものが尽きないのです。” by Hattingley Valley

Harvest in Hattingley Valley

果皮が青いですね。Précoceという呼び名が示すように原産地はフランスですが、ドイツでフリューブルグンダー(Frühburgunder)と呼ばれて赤ワインが生産されています。

いとしの路上マーケット

大都会の通りに突如現れたマーケット。サラミもチーズもソーセージも、現地のものはサイズが全然違います。それにどれも生産者の手作りで、ちゃんと原産地呼称付き。「これは何?」と聞いたら、切り分けて味見させてくれるのもうれしいところ。それも惜しげなくたっぷりと!

食いしん坊にはたまらない、バルセロナ歩きです。

カタルーニャの美しい時間、ピカピカ

「ワインと何を合わせて楽しめばよいか分からない」という方に、ぜひ参考にして欲しいのがこちら。スペインカタルーニャ地方タラゴナの家族経営のワイナリー、ビンス・パドロでのテイスティングを兼ねたピカピカ*の一コマです。美しい盛り付けを見て「こんなの自分ではできない!」と驚く前に、よーくご覧ください。ひとつひとつはとっても簡単な素材でできています。

写真上のようなものはちょっと難しく感じたとしても、こちらはいかがでしょうか?

ハモンセラーノは買ってきたものを盛り付けるだけ、スモークサーモンはオリーヴオイルとワインビネガー、粒コショウ、ディルで軽く合えて、お気に入りのポテトチップスをお皿に並べてさあ出来上がり。大好きな食器ときれいなランチョンマットで見栄えはぐっと上がります。デザートだって、ヨーグルトに季節のフルーツを乗せるだけで十分。

ワインはお手軽な赤、白、カバが似合います。ビンス・パドロの面々は赤ワインに氷を入れてますね。手をかけているようで手をかけない。それもピカピカの極意。現地のワイナリーのようなワインの楽しみ方を取り入れてみませんか?

★ピカピカって何?と思った方はこちらの記事をどうぞ →小腹を満たす夢のPica Pica

Beautiful brothers and sister of Padro family

歩けばピカソに出会うバルセロナ

ワインの旅でバルセロナに来たら、決まって宿をとるのが中世に起源を持つ旧市街、エル・ボルン地区。石造りの建物がひしめく入り組んだ路地には、人気のショップやバルが建ち並んでいます。ホテルの部屋の窓を開けるとお向かいのアパートの住人と目が合ったり(その時はHola!とご挨拶)、洗濯物が建物と建物の間にはためく南欧らしい風景にわくわくし、仕事で来ているのにこの町の一員になったような気がするから不思議です。

ピカソ美術館

そんなエル・ボルンを歩いていたらピカソ美術館を見つけました。手掛かりは「Museo Picasso」と書いた小さな黒看板だけなので知らなかったら見落としてしまいそうですが、中には4,000点にも及ぶピカソの作品が少年時代から晩年まで時系列で展示されています。入いって早々パンチを喰らう少年ピカソの写実力。有名な青の時代やキュビズム、75歳のときに描いたというベラスケスの「ラス・メニーナス」の連作58枚に目がくらくら。新たな表現を求めて変化し続けた天才画家のエネルギーに心臓がバクバクしっ放しですが、中世の貴族の邸宅だったという立派な建物も魅力です。

Museo Picasso
住所:C/ de Montcada, 15-23, 08003 Barcelona,Spain
Tel. +34 932 56 30 00

ピカソの壁画

大聖堂目当てに観光客が集まるお隣のゴシック地区では、ピカソの壁画に出会えます。カタルーニャ建築協会の壁に描かれた3作の絵がそれですが、知らなかったら落書きだと思って通り過ぎてしまいます。天才画家の絵が風雨にさらされたまま広場にあるなんて驚き。

歩いているだけで芸術に触れられるバルセロナに乾杯!

Picasso Wall
住所:Plaça Nova, 5 08002 Barcelona, Spain

ガリシアのポップコーン!

Camarones Gallegos

スペイン沿岸部でワインのおつまみといえば茹で海老。水揚げしたばかりの小海老てをさっと塩茹でするだけだからもう絶品です。地中海に面したバルセロナではカバ(カタルーニャ地方の高品質スパークリングワイン)と、南部アンダルシアではフィノタイプのシェリー(辛口シェリーの一つ)とともに流し込むのがご当地スタイルですが、なかでも北国ガリシア地方のカマロネス・ガジェゴス(Camarones Gallegos)の美味しさは忘れられません。

大西洋に面したガリシアの冷涼な気候と冬の荒い波は、さながら日本海を思わせます。ぷりっと締まった身と濃厚な味はこの海が育んだもの。ワインは地元リアス・バイシャス産のアルバリーニョと合わせるのが流儀です。「わたしたちのポップコーンは美味しいのよ。いつでも食べに来て!」と言うワイナリーの人々言葉に甘えてまた訪問したら、旬は終わってもうどこにもないと分かりがっかり。カマロネスが食べたいなら冬に行きましょう。

ワインなら例えばAdegas Valmiñor

Valmiñor Albariño
Entroido Blanco