ワイン街道のレストラン「カ・ラルケ」~冬の風物詩カルソッツで大笑い

寒さの残る3月初旬、「ぎりぎりセーフだから予約しといたよ!」と連れていかれたのは、バルセロナにあるカタルーニャ料理のレストラン、カ・ラルケ。レバンテ地方(死ぬほど暑いスペイン東南部のワイン産地)でワイナリーをしている友人が、カタルーニャ地方の冬の風物詩、黒焦げの長ネギ(正確には新玉ねぎの一種)「カルソッツ(Calçots)」を食べるというエンターテイメントを用意してくれました。本来は冬に剪定したブドウの枝を使って野外で焼き上げるバーベキュー料理ですが、噂の名物料理が街中のレストランで食べられるとあって他県出身のスペイン人もワクワクが止まらない様子で付いて来ます。

テーブルについたら紙エプロンで胸元を防備して、仲良くパン・コン・トマテ(パンにトマトを塗ったカタルーニャ地方の定番メニュー)を作ったところで準備OK。真っ黒に焦げたカルソッツの大皿が運ばれてきたら、焦げた皮を剥いてロメスコソース(ナッツやパプリカ、トマトを使ったカタルーニャ地方の万能ソース)につけ、ナイフやフォークは使わずにそのまま口に運ぶのが作法です。味は焼ネギ。そう、カルソッツが気になるメニューなのはこの“お行儀の悪い”食べ方と、次の日を台無しにするほどの強烈な臭いのせいなのです。ワインのプロにとっては大問題なのですが、「明日は誰にも会えないよ!」とみんなで大笑いしながら食べたくてソワソワと集まるのかも知れません。

さて、カルソッツがどんなに楽しくてもこれだけでは夕食は終われません。レストランではサルシッチャス(ソーセージ)や羊のアサード(炭火焼)、クレマカタラーナ(クレーム・ブリュレに似たカタルーニャ地方のデザート)がセットになったカルソターダというセットメニューに、地元カタルーニャのカバや赤ワインを合わせるのが定番です。特にいい意味で田舎らしいワインがよいでしょう。素朴で美味しい料理に旅気分満載のカルソッツは、12月~3月末くらいまでがシーズンです。

【Tips】青ネギのように見えて実は玉ねぎというカルソッツは、バルセロナから内陸部に来るまで1時間ほどの所にあるタラゴナのバイスが発祥の原産地呼称制度で保護された野菜です。地元では毎年1月最後の日曜日に開催される「カルソッツ祭り」も有名だとか。農家さんの誇りと情熱が伝わってきます。

Ca L’Arque
住所:Carrer d’Arnús, 87, 89, 08911 Badalona, Barcelona, Spain
Tel. +34 934 64 12 22

神々の遊び「繊細系フレンチとシェリー」-2023 Dec.

冬の心を温めるカタルーニャ風アンコウのスープ

アンコウのスープ/Susquet de Rape

寒い季節の定番、心も身体も温まるあんこうを使ったカタルーニャ地方のスープです。

材料
 アンコウの肝
 ピカーダ(アーモンドスライス、トースト、にんにく)
 ポロネギ
 人参
 パセリ
 玉ねぎ
 にんにく
 セロリ
 じゃがいも
 パプリカ
 トマト

事前準備:
1 アンコウとアンコウの骨を用意する。皮は取ってもらう。
2 アンコウの骨、ポロネギ、ニンジン、パセリ、玉ねぎ、にんにく、セロリでフュメ(出汁)を作る

準備:
1 小さく切ったにんにくやパセリをオリブ―オイル(ほんの少し)で揚げる。
2 にんにくやパセリが黄色になった頃、パプリカを入れて動かす。
3 フュメ(1L~1.25L)を入れる
4 じゃがいもを一片に切って少し潰し、スープに入れて中火/弱火で20~25分煮る。

5 フライパンでアーモンド、にんにくを揚げる(焦げないように注意)。キツネ色になったら乳鉢に入れる。
6 同じフライパンに残ったオリブーオイルでパンを焼き、乳鉢に入れる。
7 5と6をよく潰し、ピカーダを作る。
8)スープを火にかけ25分ほどしたらアンコウを入れる。
9)アンコウを入れて5~10分したら(アンコウの大きさによって時間を調整)、ピカーダを入れる。さらにトマトを加えて動かしながら約10分煮る。

慣れたらお味噌汁のように簡単です。「どんなワインが合うの?」と思った方、ご連絡下さい!

世界遺産アビラの銘菓にキミを想う

ジェマ・デ・サンタ・テレサ/Yamas de Santa Teresa

黄色くて丸い満月のようなフォルムがかわいい「ジェマ・デ・サンタ・テレサ(聖女テレサの黄身)」は、マドリッドから1時間ほどのところにある世界遺産の城壁都市、アビラの銘菓です。卵黄と砂糖のシロップを練り上げて丸めた素朴なお菓子ですが、19世紀中頃に商業生産が始まるとたちまち大ヒットとなり、一時は卵黄が足りなくなるほどの人気だったとか。アビラのお菓子なので別名「ジェマ・デ・アビラ」としても知られています。

11世紀に築かれたアビラには美しい城壁都市を求めて世界中から観光客が訪れます。ヨーロッパで最も保存状態が良いという名所なのに、真夏のスペインで無謀にもワイナリー巡りを強行した帰りに友だちが連れて行ってくれただけの私には、そんな友人の優しさと疲れを癒してくれた黄色くて甘いお菓子の記憶しかありません。

自分で調べて行く旅に比べて誰かに連れて行ってもらう旅の記憶がいかに薄いことか。どんなに価値あるものでも知らなければそれまでのこと。一瞬の旅ならそれでも良いかもしれないけど、旅にも似た人生がこんなだったらどうしよう。

いいえ、私にはジェマ・デ・サンタ・テレサの美味しい記憶があるから大丈夫!スペインではイースターやクリスマス、そして名前の由来にもなった聖女テレサの日、10月15日のお祝いに食べるそうです。日本なら、お月見団子の代わりにして美味しい甘口ワインと楽しむなんていかがでしょうか?

材料:

 卵黄・・・8個分
 グラニュー糖・・・100g
 水・・・80ml
 粉砂糖・・・80g
 レモンの皮

1  鍋に水、レモンの皮、グラニュー糖を入れて中火でかき混ぜシロップを作る
2  シロップができたら鍋を火から下ろし、レモンの皮を取り出す
3  卵黄を鍋に入れる
4  シロップに卵黄を少しずつ入れてよく混ぜる
5  鍋をもう一度弱火にかけて、ほんの少し固まるまでゆっくりとかき混ぜる
6  バットに広げて粉砂糖をまぶしてよく冷ます
7  手で小さく丸めて飾りの粉砂糖をまぶしたら出来上がり

マッシュポテトにドイツ人のじゃがいも愛

カルフェットピュレ/Kartoffelpüree

ドイツのとあるワインの展示会場で仕事の合間に急いで食べたこちらの一皿、絶品のドイツソーセージもさることながら、注目すべきはマッシュポテトの美味しさです。

日本では単にマッシュポテトといいますが、ドイツではカルフェットブライ(Kartoffelbrei)とカルフェットピュレ(Kartoffelpüree)と呼び分けているように、同じマッシュポテトでも微妙な違いがあり、カルフェットブライに牛乳を足して滑らかさを究めてものをカルフェットピュレと言うそうです(*ドイツ人でもそこまで意識してない人も多いようですが)。

スーパーマーケットのじゃがいも売り場には驚くほど多くの品種が並んでいて、料理ごとに使い分けているのだとか。醸造家の友人で世界的なリースリングの造り手マルティン・テッシュは、「家族が食べる一年分のじゃがいもを農家から直接買い付けて自宅の倉庫に保管している」というほど熱心。

さて、このカルフェットピュレ、シンプルなレシピですがバランスが難しく、シルクのような滑らかさと凝縮した味わいを出すにはかなりのトレーニングがいるそうです。完璧なカルフェットピュレは、じゃがいもとバターの風味が絶妙にのったクリーミーな口当たりがしているもの。バターが強すぎてギトギトになってもいけないし、じゃがいもがパサパサしてもいけないのです。

材料:
 じゃがいも・・・900g(男爵などでんぷんの多い品種)
 生クリーム・・・1カップ(脂肪分の多いもの)
 塩・・・少々
 ナツメグ(できればすりおろしたもの)
 バター・・・・100g(2cm角に切り冷蔵庫で冷やす)

1  大きい鍋に水を張り、皮付きのじゃがいも、塩を少々入れて蓋をし、柔らかくなるまで20分ほど火にかける。竹串などがすっと通れば茹で上がりのサイン。
2  水気を切り、皮をむく
3  じゃがいもを潰すか、裏ごしする
4  生クリームを沸騰寸前まで火にかけてナツメグを入れる
5  じゃがいもに生クリームを足し、滑らかになるまでよく混ぜる
6  冷蔵庫からバターを取り出し5に入れてさらによく混ぜる
7  塩で味を調えたらできあがり

【TIPS】より滑らかに仕上げたかったら最後にもう一度裏ごしするというひと手間を。面倒でもカルフェットピュレが上手に作れたら、ソーセージやザワークラウトを盛り付けるだけで美味しい一皿が完成します。ビールに手が出そうですが、ここはやっぱりリースリングを!

2周回ってイタリア、食の都の赤い泡

Medici Ermete

生産者:メディチ・エルメーテ
生産国:イタリア/エミリア・ロマーニャ州

シャンパーニュに代表されるスパークリングワインといえば白やロゼが有名ですが、赤い泡があることをご存じでしょうか。

イタリア中部のエミリア・ロマーニャ州で造られる「ランブルスコ」がそれ。愛らしい赤果実の風味と渋みの少なさでビギナーでも安心の美味しさというだけでなく、美食の国イタリアでも「食の都」として名高いエミリア・ロマーニャ州のワインだけあって食事との相性が抜群。イタリア料理といわれて連想するパルマハムやパルミジャーノ・レッジャーノチーズ、ボロネーゼソースはどれもエミリア・ロマーニャ州が発祥ですが、そんなイタリア食材はもちろんのこと、幅広い料理とよく合うので使いやすさも抜群です。さらに普通のワインより少しアルコールが低いので、スルスルと飲めてしまうという始末。

そんな愛すべきランブルスコの完成度を極限まで高めたのが、かのメディチ家の末裔が経営するワイナリー「メディチ・エルメーテ」です。ランブルスコで初めて大量生産ではなく、単一畑でのブドウ栽培を取り入れて品質を磨いた結果、カジュアルなワインが永遠の輝きを持つことになりました。気さくなのに超一流というところがたまりません。

The owner and 4th generation, Alberto Medici

いとしの路上マーケット

大都会の通りに突如現れたマーケット。サラミもチーズもソーセージも、現地のものはサイズが全然違います。それにどれも生産者の手作りで、ちゃんと原産地呼称付き。「これは何?」と聞いたら、切り分けて味見させてくれるのもうれしいところ。それも惜しげなくたっぷりと!

食いしん坊にはたまらない、バルセロナ歩きです。

カタルーニャの美しい時間、ピカピカ

「ワインと何を合わせて楽しめばよいか分からない」という方に、ぜひ参考にして欲しいのがこちら。スペインカタルーニャ地方タラゴナの家族経営のワイナリー、ビンス・パドロでのテイスティングを兼ねたピカピカ*の一コマです。美しい盛り付けを見て「こんなの自分ではできない!」と驚く前に、よーくご覧ください。ひとつひとつはとっても簡単な素材でできています。

写真上のようなものはちょっと難しく感じたとしても、こちらはいかがでしょうか?

ハモンセラーノは買ってきたものを盛り付けるだけ、スモークサーモンはオリーヴオイルとワインビネガー、粒コショウ、ディルで軽く合えて、お気に入りのポテトチップスをお皿に並べてさあ出来上がり。大好きな食器ときれいなランチョンマットで見栄えはぐっと上がります。デザートだって、ヨーグルトに季節のフルーツを乗せるだけで十分。

ワインはお手軽な赤、白、カバが似合います。ビンス・パドロの面々は赤ワインに氷を入れてますね。手をかけているようで手をかけない。それもピカピカの極意。現地のワイナリーのようなワインの楽しみ方を取り入れてみませんか?

★ピカピカって何?と思った方はこちらの記事をどうぞ →小腹を満たす夢のPica Pica

Beautiful brothers and sister of Padro family

ガリシアのポップコーン!

Camarones Gallegos

スペイン沿岸部でワインのおつまみといえば茹で海老。水揚げしたばかりの小海老てをさっと塩茹でするだけだからもう絶品です。地中海に面したバルセロナではカバ(カタルーニャ地方の高品質スパークリングワイン)と、南部アンダルシアではフィノタイプのシェリー(辛口シェリーの一つ)とともに流し込むのがご当地スタイルですが、なかでも北国ガリシア地方のカマロネス・ガジェゴス(Camarones Gallegos)の美味しさは忘れられません。

大西洋に面したガリシアの冷涼な気候と冬の荒い波は、さながら日本海を思わせます。ぷりっと締まった身と濃厚な味はこの海が育んだもの。ワインは地元リアス・バイシャス産のアルバリーニョと合わせるのが流儀です。「わたしたちのポップコーンは美味しいのよ。いつでも食べに来て!」と言うワイナリーの人々言葉に甘えてまた訪問したら、旬は終わってもうどこにもないと分かりがっかり。カマロネスが食べたいなら冬に行きましょう。

ワインなら例えばAdegas Valmiñor

Valmiñor Albariño
Entroido Blanco

ブリティッシュ・プライド!歓喜のアフタヌーンティー

Digby Fine English

日本でも定着しつつあるアフタヌーンティー。ホテルのフェアでも取り上げられることが多くなり、桜やハロウィンなど季節感を取り入れたものや和風のアレンジが利いていて華やかですが、私が胸躍るのはスコーンと紅茶、シャンパーニュのシンプルなアフタヌーンティー。例えばイギリスの新進気鋭のワイナリー、ディグビー・ファイン・イングリッシュ(Digby Fine English)が素敵です。

「さあ、テイスティングしよう」と招かれたのはご自宅。玄関の扉を開けると、焼きたてのスコーンの香りがします。ダイニングルームはシックにコーディネートされていて、上質のテーブルクロスがかかったテーブルには、手作りのスコーンにチップトゥリーのブルーベリージャム(日本でも手軽に買える英国王室御用達アイテム)、いつも決まったお店で買うというクロテッドクリームと、彼らの造る最高の英国産スパークリングワインが並んでいます。大人の上質。やっぱりイギリス人は素敵だなと見惚れていると、「そうだ。お花を飾らないとね」とウィンクして、壁の色と同じ黄色のバラを持ってきてくれました。

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歴史的にずっとワインの輸入国だったイギリスが、冷涼な気候を生かして本格的なスパークリングワインを造るようになったのは2000年代に入ってからのこと。最新の設備投資をしてシャンパーニュと同じ伝統製法で向き合った結果、きめ細かいクリーミーな泡と酸が素晴らしいイギリスならではのスパークリングワインになりました。「これまでアフタヌーンティーの最後はシャンパーニュ以外あり得なかったけど、これでやっとすべてを英国産で通すことができるようになったんだ!」とは、昔年の思いが交錯したイギリス人の心からの歓喜の声なのです。

さて、私がイギリスにいた1990年代は、人と会えば「Would you like a cup of tea?(お茶はいかが?)」と聞かれたものでした。日常生活ではマグカップにティーバックという飾らないスタイルがお決まりですが、今ではコーヒー党も増えたイギリスで、おもてなしはアフタヌーンティーという所に文化が表れていて素敵です。美しい公園があちこちにあるイギリスでは、ピクニックにアフタヌーンティーもいいですね。美味しいスコーンと紅茶とスパークリングワインがあれば、他に演出はいりません。