ガリシアのポップコーン!

Camarones Gallegos

スペイン沿岸部でワインのおつまみといえば茹で海老。水揚げしたばかりの小海老てをさっと塩茹でするだけだからもう絶品です。地中海に面したバルセロナではカバ(カタルーニャ地方の高品質スパークリングワイン)と、南部アンダルシアではフィノタイプのシェリー(辛口シェリーの一つ)とともに流し込むのがご当地スタイルですが、なかでも北国ガリシア地方のカマロネス・ガジェゴス(Camarones Gallegos)の美味しさは忘れられません。

大西洋に面したガリシアの冷涼な気候と冬の荒い波は、さながら日本海を思わせます。ぷりっと締まった身と濃厚な味はこの海が育んだもの。ワインは地元リアス・バイシャス産のアルバリーニョと合わせるのが流儀です。「わたしたちのポップコーンは美味しいのよ。いつでも食べに来て!」と言うワイナリーの人々言葉に甘えてまた訪問したら、旬は終わってもうどこにもないと分かりがっかり。カマロネスが食べたいなら冬に行きましょう。

ワインなら例えばAdegas Valmiñor

Valmiñor Albariño
Entroido Blanco

この爽やかさ、まるで大西洋の風!

グラスから溢れるハーブや柑橘の香り、カランカランとグラスに触れる涼やかな氷の音。今や世界的に人気が過熱するアルバリーニョだが、そのアルバリーニョ(それも極上の)をベースワインにしたベルムットが“食事に合うテロワール系ベルムット”、エントロイドだ。

「世の中に品質を追求したベルムットがほとんどない。それなら自分たちで作ってしまおう!」。ベルムットが大好きなアデガス・バルミニョールが、そう考えて4年の歳月をかけて地元ガリシア産のハーブを厳選し、ベースワインにこだわって本気も本気で取り組んだ。だから美味しい。週末にのんびりと一杯。ランチやディナーの前に仲間とわいわい話しながらまた一杯。リフレッシュのマストアイテムとして傍においてはどうだろう?

【ベルモット/ベルムット】白ワインに香草やスパイスを漬け込み酒精強化したフレーバードワイン、ベルモット。スペインではベルムットやベルムーという名前で親しまれてします。ニガヨモギを使うことが必須で、この名称はドイツ語のwermut(ニガヨモギ)に由来していると言われています。ハーブ系のお酒は食欲をたまらなく刺激する独特の心地よい苦みがあり、そのため本来は食前酒として楽しまれてきました。一時は下火になりましたが、スペインでは2015年頃から若者の間でベルムット人気が再燃しています。

エントロイド ブランコ/Entroido Blanco: Albarino 100% plus fresh herbs from Galicia

エントロイド ブランコ(白):厳選した22種類のハーブが漬け込まれたブランコには、アカキナなどガリシア地方に生育しないもの以外はすべて地元産を使用。意外に控えめなトップノーズにはシトラスやフェンネル、月桂樹の香りが隠れ、のど越しにぎゅっと凝縮した美味しさが流れ込む。これがベルムット?と思うだろう。そう、それが造り手のコンセプトだ。

★良く合う食材:ドライフルーツ、ムール貝、ツナ、サーモン、ナチュラルチーズなど。

凝縮感のあるブランコなら高品質の白ワインさながらに、前菜からメインディッシュまで食事を通して楽しめます。メインは魚、鶏など白身のお肉、またはお肉や野菜のパイなど。野菜の素揚げや天婦羅などもよく合います。

★22種類のハーブたち:赤キナ樹皮抽出物、ホップ、ローズマリー、ニガヨモギ、ジュニパー、ショウガ、ペパーミント、ノコギリソウ、セイヨウトウキの根、バニラ、カルダモン、レモン、フェンネル、月桂樹、バラ、シナモン、ユーカリ、ルバーブ、コリアンダー、オレンジ、カモミール

エントロイド ロホ/Entroido Rojo: Albarino 100% plus fresh herbs from Galicia

エントロイド ロホ(赤):ブランコと同じ製法で造られてるロホ。違いは色合いとハーブの種類。ベースの白ワイン(アルバリーニョ)に色素で着色しているのだが心配ご無用。すべて本物にこだわるから自社畑の黒ブドウの果皮から色素を抽出するという手間暇をかけている。ハーブは12種類*とブランコより少ないが、香りは圧倒的。トップノーズに開く柑橘系の香りは苦味を伴いまるでグレープフルーツのような爽やかさを感じながら、バニラを想わせるふくよかなニュアンスがじわじわと広がっていく。ああ、もう虜!

★良く合う食材:アンチョビ、イカの墨、タコ、甘いデザートなど。

ロホは少しカジュアルダウンして気さくなおつまみもお勧め。生ハム、チーズ、トルティージャ(卵とジャガイモのスペインのオムレツ)、コロッケ、ボケロネス(小魚の酢漬け)などのタパスや、日本の居酒屋メニューみたいなものが簡単でお勧め。焼き鳥とエントロイドなんて想像しただけで至福です。

12種類のハーブたち:赤キナ樹皮抽出物、ホップ、ローズマリー、ニガヨモギ、ジュニパー、ショウガ、ペパーミント、ノコギリソウ、セイヨウトウキの根、バニラ、カルダモン、レモン

★動画:生産者さんの解説が視聴できます→エントロイド ブランコエントロイド ロホ

美味しさの源は大西洋のはじける笑顔

Adegas Valmiñor

生産者:アデガス・バルミニョール
生産国・産地:スペイン、リアス・バイシャスD.O.

スペイン人は誠実でありガリシア人はそれ以上。D.O.リアス・バイシャスに今や数軒残るのみとなった生粋のガリシア人によるワイナリー、アデガス・バルミニョールは、1997年に創設者のカルロスが一代で築いたワイナリー。カルロスを中心にスタッフがまるで家族のように仲が良く、訪問者を友人のように迎えてくれる。

バルミニョールというワイナリー名は、カルロスが住む渓谷から取ったもの。実はこの渓谷、コロンブスがアメリカ大陸から帰国した際に3隻の船が着いたという歴史スポットでもある。産地の最南端(リアス・バイシャスに5つのサブゾーンがある)、ミーニョ―川を挟んでポルトガルと国境を接するオ・ロサルにあり、この辺りは河口から広がる大西洋とほとんど水平のようなスペインでは珍しい標高の低さが特徴だ(リアス・バイシャスという産地名は低いリアス式海岸という意味)。

大西洋の冷涼な風を受けて、4つの区画に分かれた34ヘクタールの畑からアルバリーニョ種を中心に国際的には幻のソウソン、ブランセリャオ、カイニョ・ティント、カスタニャルといった地元の“文化財”の栽培にも熱心なのだが、とにかくどれ飲んでも美味しい。それに樽発酵・樽熟成のアルバリーニョやベルムット(極上のアルバリーニョがベースワイン!)のような変わり種を造ったって、彼らが造るならちゃんと理由があり、それは絶対に美味しいということは飲む前から分かっている。知識、献身、情熱、そして愛情がワインを生み出す原動力となっていることは、ここで働く人々の笑顔にちゃんと書いてある。

Vineyard site: Catuxa
Vineyard site:  Figueiró 

★動画: Short Tour

★かもめの本棚『ワインと旅するスペイン』:連載第6回スペインの異世界ガリシア(下)

Azabache 災いから身を守るスペインのパワーストーン

黒光りする美しい黒玉(こくぎょく)、アサバチェは災いから身を守ると信じられてきたパワーストーン。サンティアゴ・デ・コンポステーラ旧市街を、大聖堂のあるオブラドイロ広場に向かって歩いていくと、おおくの宝飾店が軒を連ねていることに気がつきます。通りの名はルア・デ・アシベチェリア/Rua de Acibecheria、アサバチェ職人通りです。かつてここは、アサバチェを扱う店だけを集めた専門通りでした。

Medallón de Azabache de Oles, Asturias, motivos celtas, Azabache y plata -wikipedia

この石は、ジュラシックツリー(2億年 – 1億5千万年前から現存する世界最古といわれる種子植物)が長い年月を経て化石化したもので、英語では黒琥珀(black amber)ともいわれますが、琥珀のように樹脂ではなく樹木そのものの化石です。主な産地はスペイン北部、アストゥリアス地方。海岸沿い一帯に分布し、独特のやわらかい光沢でジュエリーとして愛され、その人気は16世紀ころに頂点に達しました。

巡礼にちなんでホタテ貝や十字架をモチーフにしたものもありますが、ガリシアの魔除けアイテム、フィーガを型どったものや、デニムなど現代の装いにも身につけやすいブレスレットやネックレスなどもあって、ちょっとしたおみやげにぴったりです。地元では今でも子どもが生まれたときに、健やかなる成長と厄除けを願って贈られるパワーストーン。昨今では、アサバチェ職人通りでなくても売られていますが、せっかくなら通りの古いお店で買い求めるのも、また思い出になるでしょう。もしかしたら偶然入ったお店が、通りで最も古いお店かも知れません。Good luck!

Pallozas in Cebreiro セブレイロのかわいいおうち

温かみのある自然素材の家

オ・セブレイロ村で巡礼路より気になるのが、パロザスと呼ばれる茅葺屋根のおうちです。温かみのあるかわいいフォルム。これが古代ケルト人のおうちで、ほんのつい最近、20世紀の終わりまで実際にひとが住んでいたと聞くと、ますます興味がわいてきます。

紀元前3世紀に古代ローマ帝国がイベリア半島にやってくるまでは、現在のスペインの大部分にケルト人が暮らしていました。鉄器時代のイギリスの円形集落や、ケルト人が築いたカストロ文化(青銅器時代からローマ文化に取り入れられるまでのイベリア半島北部の文化)そのままに、円形の石の土台を、ガリシア語でパラザ/pallazaという茅葺の屋根でおおって家畜とともに暮らしていたそうです。

Castro in A Guarda By Henrique Pereira

20世紀も後半になってようやくこの地方にも新しい建築資材を運び込むことができるようになり、使われなくなったパロザスのいくつかはガリシアの村や、レオンのアンカレスの谷、アストゥリアス西部に移築保存されているそうです。

オ・セブレイロ村のパロザスはというと、博物館になっているものがあります。低い壁と茅葺屋根は過酷な山暮らしに合わせて工夫されています。重たい雪と風雨に耐えるための高く厚みのある屋根、凍えるような寒さをしのぐために窓はほとんどなく、熱を逃がさないようにしています。山の傾斜や土地のくぼみを利用して排水も考えられています。花崗岩やスレート、オーク材、藁など土地の材料を使ったかわいいおうちは、標高1300メートルの自然のなかにやさしく溶け込んでいます。

Palloza, Pedrafita do Cebreiro By amaianos
Pedrafita do Cebreiro By Bjørn Christian Tørrissen

キリスト教の時代になり、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の要所となっても、ケルトのパロザスが取り壊されずにずっと共存していた奇跡に、村人の愛を感じます。Me gusta!

<STAY -セブレイロに泊まる>

Hotel O Cebreiro (informacion@hotelcebreiro.com, Tel 34 982367125)

もと町役場兼刑務所!らしいです。

Hostal Meson Anton (Tel 34 638 35 07 53)

Queso Cebreiro DOP コック帽のようなかわいいチーズ

ケソ・デ・オ・セブレイロ

ケソ・デ・オ・セブレイロはガリシア州北東部のルーゴ県で作られている牛乳が原料のフレッシュチーズ。コック帽やホワイトマッシュルームのような独特の形と少し酸味のある味わいが特徴です。2008年にはEUの原産地認証/DOPも受けています。

布の上で丸一日乾かすことで酸が上がり、水分が抜けてかわいらしい形に仕上がります。水分のないしっかりとしたフレッシュチーズなので、一般的なフレッシュチーズよりもリコッタチーズや密度の高いカッテージチーズに似た食感になり、洋梨や桃のコンフィチュール、トーストや蜂蜜と一緒に食べるのがおすすめです。切り分けたフレッシュチーズに、とろりとしたコンフィチュールや蜂蜜は見た目にも美味しさをそそります。

Stock image写真はイメージです

スペインで最も高価だったマイナーチーズ

起源は9世紀の終わり頃、サンティアゴ巡礼を行く巡礼者のために建てられたホスピス(病院や休憩所)で奉仕活動をしていた修道僧が、オ・セブレイロ村に定住したことにはじまります。オ・セブレイロといえばケルト文化が残る標高1300メートルの集落。巡礼者は前の宿泊地ベガ・デ・バルカルセからでも、高低差700メートルの急な登り坂をひたすら歩くことになります。盗賊などもいたかつて、ここは「フランス人の道」最後の難所と言われていました。

千年以上の長いチーズの歴史も20世紀の終わりには消滅の危機を迎え、地元の婦人会が家庭用に細々と作るのみとなりますが、信仰が今より盛んだった時代は、オ・セブレイロ村で骨休めをした巡礼者が味わい、その美味しさを各地に伝えていました。そのなかにはカトリック両王、カルロス3世やポルトガルのイサベルの名もあり、スペインからポルトガルに大量に輸出された記録があります。18世紀の年代記にはスペインで最も高価なチーズと記載され、同じく千年の歴史を持つブリー、マロワル、ヌーシャテルに次いでヨーロッパでは4番目に高価だったという記録も残されています。

Brie, Maroilles, Neufchâtel and Cebreiro, all made with cow milk

なんでも手に入る昨今でも、賞味期限の短さゆえに輸入のハードルは高く、現地に行かないと食べられない食材です。職人が作る高品質のチーズを扱うマドリードの専門店、フォルマヘ/Formajeでは、カルロスさんというチーズ職人さんのケソ・デ・オ・セブレイロを愛情いっぱいに紹介しています。

“わたしたちがカルロスを好きなのは、チーズ職人になる前は牧場主をしていたので、牛乳のことを知り尽くしているからです。職人になると決めてすべて家畜を売り払い、チーズ作りに専念しながら、ガリシアの牛乳、つまり隣人たちの牛乳を素晴らしいチーズに変えて価値をもたらしています” 

出展:Formajeウェブサイトより引用

悩み多きは現代人も同じ。宗教心からだけでなく、自分への挑戦やスポーツ感覚での参加も含めて、サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す巡礼者の数は年々増えています。1991年にガリシアの特産品に認定されたことや、続く1993年に「フランス人の道」が世界遺産に登録されたことも人気を後押しし、ケソ・デ・オ・セブレイロは消滅の危機は免れました。現地に行ったら味わってみたい産品です。

ケソ・セブレイロのレシピ 

原産地呼称委員会、Queixo de Cebreiro のウェブサイトに、ケソ・セブレイロのベストレシピ50が紹介されています。残念ながら写真がなく、国内向けのため言語はスペイン語とガリシア語のみですが、前菜のサラダから、パスタ、魚料理、お肉、デザートまですべて網羅されていて圧巻。地元ならではの多彩なアイデアはとても参考になります。

全部は無理なので、そのなかから簡単で面白そうなものを一つご紹介します。リコッタで代用してみてはいかがでしょうか。また、クリームスープとしてだけでなく、少し濃厚に仕上げてソテーした白身魚のソースにしてもよさそうです。

ケソ・セブレイロとレタスのクリームスープ

<材料(4人分)>
レタス ・・・・・・2個
オ・セブレイロ ・・80g
牛乳 ・・・・・・・500ml
じゃがいも ・・・・2個
バター ・・・・・・40g
塩、パン、パセリ

<作り方>
じゃがいもは小口に切り塩水でゆで、レタスは蒸しておく。じゃがいもとレタスに牛乳、チーズ、バターを入れてブレンダーで攪拌し、塩で味を調える。パセリのみじん切りをのせて、トーストしたパンを添えていただく。温かいままでも冷やしても美味しくいただけます。

Que aproceche!