生産者:ハッティングレイ・ヴァレー
生産国・産地:イギリス・セントラルサウス(ハンプシャー)
シャンパーニュを10年も買い付けてきたから心底思う。イギリスの泡には可能性しか感じない。こんな風に言うとイギリス人は嫌がるに違いないけれど、本当にシャンパーニュの”弟分(younger brother)”だと思っている。泡のキレと美しさ、それでいてシャンパーニュのブリォッシュ香とは趣きの異なる繊細さがイギリスらしい。もっとも地図を見れば一目瞭然で、太古の昔は大陸と繋がっていたから、南部にはシャンパーニュと同じ白亜質ベルトが広がっている。だから、というほどワイン造りは単純ではないけど、これってロマンのある繋がりだ。
一昔前のさほど取り柄のないスティルワインの国から(失礼!)、一部の造り手が本気で設備投資をしてスパークリングワインに向き合ったことが功を奏したのは言うまでもなく、冷涼すぎたこの産地では地球温暖化も味方している。今後十年もすればレゼルヴワインのストックも十分に達し、よりふくよかな味わいも期待できるだろう。品質の向上が著しいイングリッシュスパークリングも、土地柄、酸のシャープさはときに過剰なものもある。ところが、ハッティングレイでは一部にマロラクティック醗酵を施していて、ほんのり、でも取れすぎない絶妙なバランスで角が取れているところが秀逸だ。
イギリスではアフタヌーンティーの最後にシャンパーニュを飲む習慣があるのをご存じだろうか?こんな風に優れたスパークリングワインが自国でできるようになったのを、一番喜んでいるのは紅茶党のイギリス人かも知れない。何といっても、アフタヌーンティーを最初から最後までイギリス産で楽しめるようになったのだから!
“WE CAN’T GUARANTEE THE WEATHER, BUT WE CAN GUARANTEE THE WINE.“
「天気は保証できないけど、ワインは任せてくれ」。元イギリス在住者としては、このブラックユーモアがツボ。現地では有料でワイナリーツアーも楽しめる。念願叶って2015年に買い付けた初めてのイギリスワインの一つ。