シェリーのいろは

最も古いもので1611年の文献に登場する、日本人が初めて出会ったであろう西洋のワイン。それが「スペイン南部アンダルシア地方ヘレス周辺」で造られる白ワイン、シェリーです。例えるなら紹興酒や日本酒の古酒のような趣のある、旨みたっぷりのお酒です。ちょっと特殊なのでワイン通の間でもマニアックと思われがちなシェリーですが、一たび分かってしまえばこれほど簡単なものはなく、何より病みつきになる美味しさです。

そんなシェリーのいろはを、できるだけ簡単に説明してみましょう。ただし、初めての方は読んだだけではまず分からないので、やっぱりイベント&セミナーにお越しくださるのが一番です。ごめんなさい。

アルコール添加とソレラシステム

シェリーは白ワインと言いましたが、作り方が一風変わっています。昔々、今のような設備や技術がない時代、ワイン醸造に腐敗はつきものでした。それを解決したのが「アルコール添加(酒精強化)」という手法の発見。蒸留酒を白ワインに足すことで腐敗を回避したシェリーは、やがて大航海時代を迎えると水代わりに大量に船に積み込まれ、世界へと船出していきました。アルコール添加には、ブドウが原料のブランデーを用います。8世紀頃にアラビアからヨーロッパに持ち込まれたという蒸留技術は、この時代に大いに発展したことがうかがえますね。

ソレラシステム(Solera y Criadera)

うなぎのタレのような動的熟成

次にもうひとつ、シェリーを特徴づけるのが「ソレラシステム」という熟成法です。正式には「クリアデラ・イ・ソレラ」と呼ばれ、クリアデラとソレラという2つの役割を担う樽で構成される一山の樽のなかで、一定の法則に従って樽から樽へと収穫年の違うワインを継ぎ足していく(コリダ・デ・エスカラ/追段)手のかかる製法です。クリアデラは若いワインを継ぎ足しながら“育てる”ための樽、ソレラは最も長く熟成されたワインが最後に入る樽で“床の上”に置かれています。平均熟成年数は法律で2年以上、長いものでは15年以上というものもあります。

樽でそのまま熟成される(静置熟成)普通のワインと違って、継ぎ足しながらブレンドを行うシェリーの「動的熟成」は、うなぎのタレに似ていませんか?長年の継ぎ足して旨みを増すうなぎのタレを知っている日本人にとっては、うなぎのタレと考えた方がわかりやすいかも知れません。

その目的は?

長い年月をかけて複数の収穫年のワインをブレンドすることで若いワインも古いワインの特徴を備え、微妙に酸化しながら全体の味わいを均一化することです。そのためシェリーには普通のワインで起こりえる瓶差がなく、いつも同じ、“あの銘柄のあの味”が楽しめます。

職人の技

シェリーの継ぎ足しが面白いのは、単純に上から下、右から左へと継ぎ足すのではないことです。樽ごとの味をテイスティングして、「この樽をこちらに、いついつにあちらに」と、職人が独特のサインを樽に記し緻密に行っていきます。シェリーというお酒には、大らかなスペイン人の中でも特に大らかなアンダルシアの人々の生真面目さと職人魂が輝いています。

ベネンシア

ところでこれだけたくさんの樽をブレンドしていくとなれば味見が必要ですね。そのためには90cmほどの長い柄のついたベネンシアという道具を使います。そして試飲のシェリーを樽から汲み出す職人のことをベネンシアドールと呼びましたが、現在ベネンシアドールはシェリーのプロモーションで鮮やかな技を披露して活躍しています。

※写真下はパフォーマンスをするベネンシアドールではなく、ワイナリーの人が日常的に行うベネンシアです。

Bodegas Gutierrez Colosia

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