山間部から世界へ。小さな産地の心意気
スペインきっての白ワインの産地からうまれる魚介類と相性抜群の白ワイン、ボデガス・ナイロア。派手な評価やストーリーはないけれど、実直に造るワインが素直に美味しくて驚くほどリーズナブル。単に欠点がない良品というだけでなく、地元リベイロの伝統品種を使って産地の個性をしっかりと表現しているところに心意気を感じます。青みがかった明るいイエロー、白い花を思わせる芳醇な香り。口中では柔らかく滑らかで酸のバランスがよく、ストラクチャーもしっかりとしているので、魚介類や白いお肉、野菜とよく合います。たとえば日本なら、あさりの酒蒸しやカルパッチョ、魚の塩焼き、シーフードサラダ、根菜の煮物、冬は鍋料理などに合わせて楽しめます。そう、毎日の食事に合うオールラウンダー。家族みたいにいつも一緒にいるワインです。
ボデガス・ナイロアは、山間部のワイン産地、リベイロの南部アルノイアにあります。ワイナリー名の「ナイロア」は地名であり、ボデガ(ワイナリー)の近くを流れるアルノイア川のスペルを並べかえた言葉遊びから生まれた造語でもあります。響きがよく覚えやすい良い名前です。
ワイナリーの歴史は、第二次世界大戦の混乱もまだ冷めやらぬ1950年、一人の農民の手によって始まりました。スペイン中で伝統品種が引き抜かれ、量産に向いた品種に植え替えが進んだこの時代、二千年の伝統を誇るリベイロのワイン造りを継承しようとしたこの小さな一歩は、1999年、彼が亡くなると、その志を受け継いだ地域のひとびとの手によってボデガス・ナイロアとして第二章を歩むことになりました。「受け継がれてきた叡智とノウハウを未来に残したい」と強く願った人々が出資者となり、醸造には最新の設備も導入して地産のワインに磨きをかけています。クオリティや産地の個性を追求するのは当たり前。それに加えて、環境に配慮したワイン造りをポリシーに据えているところにも誠実さを感じます。
ナイロア/NAIROA
千円ちょっとで買えるエントリークラスのワインなのに、収穫はすべて手摘みで行い、畑でブドウの選別をします。収穫したブドウが潰れないように、収穫用のカゴには15キロと小さいものを使い、ワイナリーに持ち込むと、醸造する前にもう一度選別をしてよいものだけを使うという徹底ぶり。地元では魚介類がふんだんに積み上げられたバルのカウンターで、食べるのに専念しつつリベイロを流し込む。わずかに塩味を感じる、魚介類によく合う白ワインです。早飲みで、リリースから24か月くらいの間、このフレッシュさと香りが楽しめます。
ワインに現れるガリシアのアイデンティティ
緑のグラデーションが目にも眩しい、標高200メートルのブドウ畑。良好な陽当たりを選んで山々に飲み込まれるように切り開かれた斜面の段々畑には、花崗岩質土壌の区画で伝統品種が大切に栽培されています。採算が合わないから大手の影響もなく、ひっそりとした佇まいが残されています。
<伝統品種>
- トレイシャドゥーラ:ストラクチャー、熟成のポテンシャル、エレガンス
- トロンテス:苦味、強さ、
- パロミノ:フレッシュさ、軽やかさ
こういった様々なニュアンスをもつ伝統品種のブレンドが、あのナイロアの味わいなのだと思うと、また違った側面からワインをとらえることができるような気がします。ワイナリーの歴史こそ長くはありませんが、ワイン産地としての歴史があるので、畑には樹齢の古いブドウの樹がたくさん残っています。木も歳をとると樹勢が落ち着いて安定してくるので(ちょうど若い頃もて余していたエネルギーが落ち着いて賢くなった人のよう)、ワインに品質をもたらす財産であり、飲みやすさのなかに芯のある凝縮した味わいのワインにしあがります。
リベイロのブドウ畑は総面積2500ヘクタール。全部で115軒のワイナリーがあり、約6000人のブドウ栽培家が畑の手入れをしています。単純計算すると、一軒あたりのワイナリーの畑はたったの21ヘクタールしかありません。商業化に成功して国際市場にも出ているワイナリーに限るとその10パーセントにも満たないという小さな産地です。こんな閉ざされたところにも凄いワインが眠っている。ワインは決してブランドではありません。
写真の左上にうっすらと蛇行した川が、右手にはボデガス・ナイロアが見えます。川と斜面の間に拓かれたわずかな土地に営まれる、ひとびとワインの生活。これが二千年以上前からずっと続いているということに、想いを馳せてしまいます。Life continues so dose Wine!
Protected: Ribeilo, more gastronomy リベイロの美食
Protected: Madredeus on the way to Ribeiro マドレデウスに誘われて
Protected: Bodegas Forjas de Salnes フォルハス・デ・サルネス -海の赤ワイン
Protected: Camino de Santiago 星の巡礼サンティアゴ
Protected: Mercados de Santiago de Compostela サンティアゴ・デ・コンポステーラの胃袋
Protected: Oh My Latte Art 偉大なるラテアート
Rias Baixas D.O. リアス・バイシャス
世界的な知名度はガリシア地方で一番
原産地呼称制度の下で14品種の栽培が認められているものの、アルバリーニョ種が突出。1988 年に認定された比較的新しい産地で、北部カンバドスを中心にコンダト・ド・テア、オ・ロサルなど、5つのサブゾーンに分かれている。非常に高い品質のワインができる素晴らしい産地だが、品質向上に取組む造り手はまだ意外にも少数派。そこにはワインの消費量が多く、地元のワインを好むガリシア人の気質によって品質の向上をせずとも販売に困らないという背景がある。内陸部のワイン産地、リベイロに比べると樽はあまり使わないが、1000~2000㍑の大樽で醸造したものは、ときに特別なワインとなる。アルバリーニョは、ワインに慣れてなくても素直に美味しさを感じられる近づきやすさがある。
地形がそのまま産地名に -低いリアス式海岸
ガリシア地方の沿岸部一帯はリアス式海岸になっている。この先はアメリカ。標高が低いため、大西洋の冷涼な風が遮られることなく畑を吹き抜ける。車窓から見える海岸線は、ゆるやかに内陸部へと続く。リアスはリアス式海岸、バイシャスは低いという意味。
地理・地質と気候
標高:平均 93 メートル。最高でも 160 メートルほどと全体的に標高が低い。
土壌:豊富なミネラル
浅くやや酸性の砂質土壌が、高い品質のワインを造る。岩のタイプは圧倒的に花崗岩。
気候:大西洋気候
冬は寒く夏は暑い大西洋気候であるが、海の影響で気温の変化はより穏やか。逆に湿度、降水量はより高い。ミーニョ川上流に近づくにつれ、つまり内陸に向かうと降水量が減り、ブドウはより早く成熟する。
降水量:年間 1600mm (東京- 約 1500mm)。ガリシア地方では内陸部より沿岸部の方が雨が多い。
リアス・バイシャスを大きく3つに分けると(正確には5つ)
- 北部カンバドス:ほぼ 100%アルバリーニョ
- 内陸部コンダド・ド・テア:リベイロに近くトレイシャドゥーラの栽培も多い(90%はアルバリーニョ)
- 南部オ・ロサル:ロウレイラ、カイニョも
品種:90%以上がアルバリーニョ
リアス・バイシャスといえばアルバリーニョ。色は淡い黄金色から緑がかった黄金色、香りには素晴らしい凝縮感があり、フェンネルやミントなどのハーブや花、さらに熟したリンゴ、アプリコットを想わせる。口中ではオイリーで豊かな果実の甘みが際立つ(良いものは複雑味とエレガンスを兼ね備える)。
赤ワインの生産はわずか1%と極端に少ない。大西洋気候の特徴が良く出た、輝くような紫色をした赤果実やハーブの香りが豊かな酸の高いスタイルが多い。
黒品種: カイニョ・ティント、エスパデイロ、ロウレイラ・ティント、ソウソン、メンシア、ブランセリャオ
白品種: アルバリーニョ、ロウレイラ・ブランカ、マルケス、トレイシャドゥーラ、カイニョ・ブランコ、トロンテス、ゴデージョ
ブドウ畑は主に棚仕立て。雨が多いので、こうすると畑に湿気がこもらずブドウが病気にならない。大人の背丈より高いので上を見上げながらの手入れはやっぱり大変で、良いワインを造るのに楽なことはなにもない。南部のオ・ロサルに行くにつれて標高が上がり、棚仕立ては姿を消す。リアス・バイシャスがすべて棚仕立てと思ったらそうではない。When you see Rias Baixas, just buy it!
Wines & Serenity 最高のワインと修道院ホテル
山間の小さなワイナリーを訪れ修道院のスパホテルに泊まる – Spain Ribeilo
ワイナリーを訪問して醸造家と話をし、ワインをテイスティングするのは最高の時間です。ワイナリーはたいてい自然豊かな場所にあり、ワイン関係者はみな美味しく食べて幸せに暮らすことが大好きです。食べることはきっと旅の最大の楽しみであり、ワイン産地ならなおさらです。いっそこのまま何日か滞在してみたいとは誰もが思うことでしょう。
リベイロまで足を延ばしたのならモヌメント・モナステリオ・デ・サン・クロディオ ホテル&スパ/ Monumento de Mnasterio de San Clodio Holtel & Spaがおすすめです。
リベイロの陰に修道士の名残あり
モナステリオ・デ・サン・クロディオは、ただのスパホテルではありません。もとは12世紀にさかのぼるシトー派修道院で、近年になって、ガリシア州政府により宿泊施設として生まれ変わりました。はっきりとした来歴は定かではなく6世紀頃とも928年といも言われていますが、1225年にシトー派の拠点となり世俗化するまで(その後19世紀末に今度はベネディクト派となりつい近年まで存続)、ずっと修道院として運営されてきました。1931年にはアヴィア川にかかるサン・クロディオ橋とともに「国の歴史的および芸術的記念碑」にも指定されています。この辺りは小規模ながら佇まいのある小さなワイナリーが多く、-例えばボデガ・ビルマレ/Bodegas Vilmareはとっても気になる-、少し上流には銘醸ワイナリー、コト・デ・ゴマリスもあって、ワインツーリズムをするには最高のロケーション。静かな山奥の元修道院でいつもとは違う時の流れに身をゆだね、最高のワインをテイスティングする。考えただけでも充実したひと時が過ごせそうです。
お腹が空いたら
お腹が空いたら敷地内にあるレストラン、レストランテ・サン・クロディオ・ドス・モンセス/Restaurante San Clodio Dos Monxes(サン・クロディオの二人の修道士という意味)や、すぐ近くのオ・モステイロ/O Mosteiroで美味しいワインと絶景を眺めながらガリシアの絶品料理がいただけます。サン・クロディオは洗練された料理を、オ・モステイロでは居心地のよい空間で、優しい味付けの心温まる家庭料理が楽しめます。それも信じられないほどリーズナブルに。シーズンには美しい花が咲くテラスが素敵です(O Mosteiro: Tel. 34 655 71 15 55)。
リベイロが近年最も栄えていた千年前に時計を戻して想像してみましょう。いまとは違い、修道院は社会の中心的な存在として中世のひとびとの精神世界を支配しただけでなく、一大商業センターとして銘醸ワインを産出し富を蓄えてきました。識字率の低かったこの時代にあってはエリートが集う学府であり、学識ある修道士たちは、当時の主要産業だった農業についても熱心に研究を行っていました。
リベイロにブドウ畑を開墾したシトー派は、1098年にブルゴーニュ地方のニュイ・サン・ジョルジュに誕生したカトリックの宗派で、特に厳格なことで知られています。祈りと労働によって神に仕え称えることを使命とし、神に捧げるワインを最高たらしめるために、ときには土を食べて土壌分析を行ったといいます。得意のクロ(Clos/囲み)の技術を使い、日当たりのよい斜面に緻密な石垣の段々畑を築いていきました。写真の石垣は色の濃いものがシトー派修道僧が築いたもの、下が近年修理されたものです。こんなところにも歴史の影がみえます。
そんなシトー派がリベイロに見出した最高の畑は、さらにその千年前、ワインが大好きな古代ローマ人が開墾し、すでに多彩な品種を栽培してワイン造りをしていたという記録が残されています。人生を楽しむことが好きな古代ローマの人々は、ここできっと最高のワインを飲んでいたことでしょう。千年という悠久の単位で継承される、リベイロ最高のブドウ畑の歴史が面白いです。Have a lovely stay!